大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和63年(行ツ)184号 判決 1993年5月28日

上告人 佐々木晃一

被上告人 兵庫税務署長

代理人 加藤和夫 寳金敏明 小尾仁 村川広視 高山浩平 手崎政人 青山龍二 ほか三名

右当事者間の大阪高等裁判所昭和六二年(行コ)第七号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和六三年九月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあり、被上告人は一部破棄、一部上告棄却の判決を求めた。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決中、上告人の昭和五一年分の所得税に係る再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消請求に関する部分を破棄し、第一審判決中右部分を次のとおり変更する。

被上告人が上告人に対して昭和五五年二月五日付けでした昭和五一年分の所得税に係る再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分中、納付すべき税額二二一万七四〇〇円及び過少申告加算税額九万七四〇〇円を超える部分を取り消す。

前項の処分に関する上告人のその余の請求を棄却する。

上告人のその余の上告を棄却する。

第一項の破棄部分に関する訴訟の総費用はこれを一〇分し、その一を被上告人の、その余の上告人の負担とし、前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告代理人高橋敬、同羽柴修の上告理由第二について

原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人の昭和五一年分の所得税について、(1) 上告人は被上告人に対し、昭和五二年三月一四日付けで、事業所得金額を一七四万円、分離課税に係る長期譲渡所得金額を一三七万九〇五五円、納付すべき税額(昭和五一年分所得税の特別減税のための臨時措置法に基づく特別減税の額を控除した後の額、以下同じ)を二六万七六〇〇円とする確定申告をした、(2) 被上告人は上告人に対し、昭和五五年二月五日付けで、事業所得金額を六八三万四〇〇一円、分離課税に係る土地の譲渡等による事業所得金額を四四三万八一九七円、納付すべき税額を二七一万六〇〇〇円とする再更正処分及び過少申告加算税額を一二万二四〇〇円とする過少申告加算税の賦課決定処分をした、(3)本件再更正処分等に対する上告人の審査請求に対し、国税不服審判所長は、昭和五七年一月二七日付けで、事業所得金額を一一二二万二二八七円、納付すべき税額を二四二万三二〇〇円、過少申告加算税額を一〇万七七〇〇円とし、本件再更正処分中右納付すべき税額を超える部分及び本件賦課決定処分中右過少申告加算税額を超える部分をそれぞれ取り消す旨の裁決をした、(4) 上告人には、昭和五一年分の所得として、事業所得金額一〇二九万〇四〇二円、分離課税に係る土地の譲渡等による事業所得金額三五万五六〇一円が存在する、というのである。

右事実関係の下において、原審は、上告人の事業所得金額一〇二九万〇四〇二円は本件再更正処分における事業所得金額六八三万四〇〇一円を上回るから本件再更正処分は適法であり、本件再更正処分においては分離課税に係る土地の譲渡等による事業所得金額が認められているが、同金額は裁決において取り消されているから本件訴えにおいては右の点の課税関係は審判の対象とはされていないものと判断し、本件再更正処分及び本件賦課決定処分(ただし、いずれも裁決による一部取消し後のもの、以下同じ)のうち右確定申告額を超える部分の取消しを求める上告人の請求を棄却すべきものとした。

しかしながら、原審の右判断は是認することができない。すなわち、課税処分の取消訴訟における実体上の審判の対象は当該課税処分によって確定された税額の適否であるから、当該課税処分によって確定された税額(ただし、審査請求に対する裁決によりその一部が取り消されたときは取消し後の税額)が租税法規によって客観的に定まる税額を上回る場合には、当該課税処分はその上回る限度において違法となるものというべきである。これを本件についてみるのに、本件再更正処分は上告人の納付すべき税額を二四二万三二〇〇円と確定したものであるところ、これに対して、前記事実関係の下において、上告人の昭和五一年分の所得(事業所得金額一〇二九万〇四〇二円及び分離課税に係る土地の譲渡等の事業所得金額三五万五六〇一円)に対して客観的に定まる納付すべき税額は二二一万七四〇〇円(編注・上記金額は、前記特別減税の額を控除した金額である。)であることが明らかであるから、本件再更正処分中、右納付すべき税額を超える部分は違法なものとして取消しを免れない。同様に、本件賦課決定処分は上告人の過少申告加算税額を一〇万七七〇〇円と確定したものであるところ、右事実関係の下で、上告人について客観的に定まる過少申告加算税額は九万七四〇〇円であることが明らかであるから、本件賦課決定処分中、右過少申告加算税額を超える部分は違法なものとして取消しを免れないこととなる。以上と異なる原審の判断には課税処分の取消訴訟における審判の対象について法令の解釈適用を誤った違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。

したがって、原判決中、本件再更正処分及び本件賦課決定処分の取消請求に関する部分はこの点において破棄を免れず、第一審判決中同部分を右の趣旨に変更すべきである。

二  その余の上告理由について

所論(昭和五一年分についてのその余の論旨及び同五二年分についての論旨)の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、九二条を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 可部恒雄 貞家克己 園部逸夫 佐藤庄市郎)

上告理由<略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例